「……っ!」
突然、ドアが開いて部長が入ってきた。私は胸が高鳴るのを抑えきれなかった。まるで密室の中で取り残されてしまったような気持ちだった。
「お、生田部長! どうかされましたか?」
「みのりさん、こんな時間にまだ残っているんですね。お疲れ様です」
部長は穏やかな声で言った。
「はい、これからちょっと校正をして帰ろうと思っていたところです」
「そうですか。私もちょっと書類を取りに来たところでした。これから出かけるんですが、帰りに手伝ってあげましょうか?」
「え、いいんですか? ありがとうございます!」
私は驚きと感謝の気持ちで頭を下げた。生田部長と一緒に帰れるなんて、とても嬉しかった。
そこで私は千羽さんとのことを思い出し、顔が熱くなってしまった。
「あ、でもその前に、ちょっと用事があって……」
「用事ですか?」
生田部長は不思議そうに私を見た。
「はい、あの……」
私は千羽さんとのことを話すのも気が引けたし、何かいい口実を考えなければならなかった。
「……あ、あの、実は私、本を返しに行かなくちゃいけないんです」
「本ですか?」
「はい、その……明治文学の本を借りたんですが、もう期限が過ぎてしまって……」
「そうですか。それなら、私が送ってあげましょうか?」
「え、本当に? ありがとうございます!」
生田部長の優しさに、私は感激していた。
「それでは、早速行きましょうか」
部長が言って、私たちは一緒に出発することになった。
私は胸がドキドキと高鳴るのを抑えきれず、生田部長を隅目でチラチラと見ていた。彼のオシャレなスーツ姿がとても格好良かった。しかし、私は彼と付き合えるわけがないと自分に言い聞かせた。
彼は出世頭で優秀な人材で、私はただのOLにすぎない。それに、私には彼に代わる人生の相手がいる。
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